何も言ってくれないから、子どもの気持ちがわからない。親御さんにとっては、とても不安なことですね。箱庭療法は、言葉を使わなくてもできる心理療法です。理解の手助けをし、子どもさんの成長をはぐくむ、遊びでも絵画でもない箱庭療法を経験14年の心理カウンセラーがご紹介します。

箱庭療法とは?

箱庭療法は、1929年にローエンフェルトにより、子どものための心理療法として考案され、教えを受けたカルフがユング心理学を取り入れ、大人にも効果があるものとして発展させました。

心理学者 河合隼雄が、カルフから教えを受け、日本に導入しました。

砂場

方法

砂の入った箱に、パーツと呼ばれる、おもちゃなどを入れ、自由に表現します。

砂箱

砂箱は、内のりが、57×72×7(cm)で、内側が青く塗られています。青く塗っているのは、砂を掘ったときに、水が出てくる感じを出すためです。海や川などを表現することができます。

パーツ

玩具などを用意します。規定はありません。木、花、動物、人、仏像、乗り物、軍隊、柵、家具、家、建物、ガソリンスタンドなど、多種多様なものを用意します。

大きさもバラバラでかまいません。

砂を動かし(動かさなくてもいい)、パーツを自由に乗せ、表現していきます。

カウンセラーの態度と回数

「この砂と玩具を使って、なんでもいいから、作ってみてください」などと言って、自由に表現するのを見守ります。

「これは何々を示していますね」などと、解釈はせず、鑑賞するような態度を持ちます。

1回きりで終わらず、時間をおいて、回数を重ねることにより、成長やこころの状態を感じ取りやすくなります。

アートセラピーなど、他の療法との違い

箱庭療法は、遊戯療法と絵画療法の間に位置します。

遊戯療法では、成長の課題やこころの状態をイメージで把握しにくいですが、箱庭療法では、視覚でイメージを感じとることができます。

絵画には、上手い下手があるという思いがあり、抵抗がある方がいますが、箱庭は、玩具を置くだけなので、ハードルが下がります。

また、立体的な表現をすることができるのが特徴です。

どんな効果がある?

言葉にできないことを自由に表現し、それをカウンセラーが受け入れ、理解しようとすることにより、こころが開かれていきます。

葛藤や不安、怒りなどを表現し、カウンセラーに支えられながら、自分の課題を乗り越えていきます。

表現できないストレスが、癇癪や腹痛などの症状につながります。箱庭で表現できることで、症状を軽減していくことができます。

カウンセラーが、相談者の理解を深められ、よりよいアプローチをすることができます。

※箱庭療法の効果には、個人差があります

事例

調子が悪くなると砂の中に玩具を隠す、という小学生がいました。

この”玩具を隠す”という行動を、兆候としてとらえることができるようになったため、お母さんに伝えました。

それ以降、それほど調子が悪いように見えない日も、お母さんに、家庭でも気をつけるようにしてもらったケースがあります。(玩具を隠すことイコール不安とは限りません。この子の場合はそうでした)

また、箱庭療法を続けていくなかで、置きながら、自分の気持ちを話してくれた中学生がいました。

発達障がいを抱えており、面と向かうと話しにくかったり、当たり障りのないことしか話してくれなかったりしていたのです。発達障がいの特性に加えて、過去に傷つき体験もあり、自分のこころのうちを言葉にするのが難しかったのでしょう。

自分が置いた箱庭を、カウンセラーが評価せずに受け入れ、理解しようとする態度を続けることで、こころを開いてくれました。間に箱庭があることで、直接向き合わずにすみ、話しやすくなったという点も大きなことでした。

さらに具体例が知りたい方は、「箱庭療法入門」(誠信書房 河合隼雄編)をごらんください。写真付きで事例が詳しく載っています。※記事の最後にリンクがあります。

合っている人と合っていない人

箱庭に興味を持ち、やってみたいと思う人には、年齢にかかわらず、合っているといえるでしょう。(カウンセラーによっては、年齢など制限を持っている人がいるかもしれません。可能かどうか、個々に問い合わせてみてください)

興味がわかない人には無理強いしません。破壊的になって、砂を出したり、玩具を壊そうとしたりする人、箱庭の表現がひどく荒れた感じがする人などは、中止します。

基本的には、箱の内にパーツを置きますが、縁に置いたり、子どもの場合は、箱の外に置いたりしていても、大丈夫な場合があります。

続けるかどうか、他の療法に変え、様子をみて再導入するかどうかなどは、カウンセラーの判断にまかされます。

統合失調症の方は、砂が崩壊感を招き、向かないとされています。

どこで受けられる?

箱庭療法には、砂箱とパーツという準備物が必要です。そういった設備が整っていて、箱庭療法をやった経験のある、熟練したセラピスト、カウンセラーがいるところで受けましょう。

箱庭療法をやりますとうたっているところはもちろんですが、そうでなくても、キャリアが長く、自分のカウンセリングルームを持っている人の中には、箱庭療法の設備を持っている人もいます。できるかどうか、問い合わせてみるのもいいでしょう。

カウンセリングの研究会が箱庭の研修会をしている場合があります。1日や宿泊研修などがあり、1人だけではなく、グループで置く場合もあります。体験してみるのには、いい機会ですし、そこで、受けられるところを聞いてみるといいでしょう。

大事なこと

ある程度特性や性格を知ることもできますが、むしろつらさ、苦しさなどの、こころの状態や、今抱えている人生の課題を感じ取ることにすぐれた療法です。

大事なことは、1人で置かないことです。守りが薄く、こころが荒れる危険性があります。

内面のデリケートな部分を表現していきますので、評価したり、分析したりせず、あたたかいこころで見守る態度を持つ、カウンセラーが存在することに大きな意味があります。

カウンセリングルーム、砂箱の中に置くという枠組み、カウンセラーという、何重もの守りの中で、安心できる環境で、自由にこころを表現していくことが大切です。

※参考文献

箱庭療法入門
(誠信書房 河合隼雄編)

この記事を書いた人

いなまつゆか
経験14年の心理カウンセラー。記事は一応真面目だが、大阪出身・兵庫在住の血ゆえ、講演では、「先生のネタ、おもしろいですね」との評価を受ける。感覚過敏とコミュニケーション下手を克服した経験を生かし、発達障害・不登校状態を抱える母子の幸せな人生再生に邁進中。

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