この記事は、様々な障害や病気をもつ子どものためのタッチケアインストラクター藤森史子さんに、発達障害をもつお子様へのタッチケアとは?その効果など詳しくご説明していただきます。
発達障害のお子様へのタッチケアとは?
発達障害を知る中で、感覚統合と言う言葉を耳にしたことのある方も多いと思います。
人間には基本的な7つの感覚があって、それを無意識に自動的に調節することによって、「自然に」生活していくことができます。
発達障害をもつ方には、この7つの感覚のどれかに凸凹があったり、感覚をインプットして脳で統合し、判断実行するアウトプットの仕方が異なっているという特徴があります。
基本的な7つの感覚
7つの感覚と言うのは、五感(触覚・嗅覚・味覚・聴覚・視覚)と前庭覚(平衡感覚)と固有覚(関節と筋肉のセルフコントロール)です。
これらの感覚がピラミッドの基礎となって積み上がり、最終的には学問を学習することができるように成長していく・・と言われています。
ピラミッドですから、下の土台からしっかり積んでいけば強固なピラミッドができます。
その一番下の土台となるのが、「触覚」と「前庭覚」と「固有覚」です。
2段目が「聴覚」、「味覚」、「聴覚」、「視覚」です。
プラスの触覚刺激を十分に受けて成長することが、人間の基礎を安定したものにするのです。
土台に当たる部分ですから、なるべく小さな頃からしっかりと創っていったほう良いのですが、後から補強することもできますので、タッチケアはいつからでも始めてほしいと思います。
期待できる変化
発達障害をおもちの方には、ある特徴的な分泌がみられるホルモンがあることが、分かってきています。
代表的なのが【オキシトシン】と【セロトニン】です。
オキシトシンは、通称幸せホルモン、絆ホルモンと呼ばれており、体内で成長やつながりに広く深く関わっているホルモンです。
セロトニンは安定とバランスに寄与するホルモンです。
タッチケアを行うことによって、オキシトシンやセロトニンの分泌が促進され次のような変化が期待できます。
- ストレスが減る
- タッチをしてくれる人への興味がわく
- タッチをしてくれる人への信頼が深くなる
- 不安や恐怖が減る
- 安心感が増す
- 落ち着いていられる時間が長くなる
- 呼吸が深くなる
- 身体の緊張が和らぐ
- 接触過敏が改善する
- 胃腸機能が改善する
- 身体意識が増す
- 自己調整力が増す
タッチの手技を工夫することによって、自傷行為や他傷行為を減らしたり、身体の部分への意識を高めることも期待できます。
過敏がある場合には?
発達障害の子どもに多くみられる【感覚の過敏】から、触られるのが苦手な子もいます。
そのような接触過敏がある場合には、最初から肌と肌を合わせる必要はありません。
服や布の上からでもいいし、指人形や手袋を使ってもいいです。
ミニカーなど安全なおもちゃを使って、遊びながら楽しく接触刺激を増やしていけば大丈夫です。
タッチケアでの効果
タッチケアを始めてから変化が見えはじめるまでの期間や、変化の大きさは人それぞれです。
変化が目に見えにくく、ある程度時間もかかるので、すぐにやめてしまう方もいるかもしれませんが、少しづつでも続けていくことで必ずお互いに変化があります。
時間の無駄だった、
やらなければよかった、
ということは絶対にありません。
タッチケアによってできる信頼関係やコミュニケーションが、療育やしつけ、学習の基礎となりますので、気長に楽しんでいただきたいと思います。
実際の事例
- 接触過敏があるのでタッチケアは無理だと思っていたが、少しづつ続けるうちに子どものほうから「やって!」と言ってくれるようになった。
- 足裏の過敏があり、つま先歩きだったが、足裏へのタッチをすることでしっかりと地面につけるようになった。
- 床屋さんで髪を切ってもらえるようになった。
- 先生の指示が聞けるようになった。
- 夜中に目の覚める回数が減った。
- 親のストレスが軽くなった。
- 子どもを尊重してあるがままに見られるようになり、子どもとの関係が変わった。
- 信頼関係が深くなり、その結果叱り方が変わり、キレるように叱ることがほとんどなくなった。
- 子どものことが受け入れられるようになり、義務感からではなく本当の意味で愛おしいと思えるようになった。
未就園児を対象にしたある実験
「やんちゃ」な子供たちを2つのグループに分けます。
グループAは、ふれあいのある遊びをします。
グループBは、ふれあいの無いビデオや本などの遊びをします。
すると、グループAの子どもたちの行動が落ち着いてきて、いわゆる「問題」と言われる行動が減ったといいます。
タッチケアは必ずしも親だけがやるものではなく、こども同士や信頼できる大人とのふれあいもとても大切なことが分かります。
親が子どもにできること
タッチケアは親が一方的に与えるものではなく、子どもの気持ちを最大限に尊重し、ふれるという相互作用によって双方が幸せを感じるものです。だから半分は(もしかすると半分以上は)親のためかもしれません。
子どもは、自分の身体がどう扱われるかによって、将来の心理的安定感に大きな違いがうまれます。
身体を大切に扱ってもらえれば、
安心して、他人にも同じように接しようとするでしょう。
身体を大切に扱ってもらっていなければ、
不安になり、他人にも同じように接してしまうでしょう。
愛情をもって、
ふれてもらって育ててもらうと、
人を信頼してコミュニケーションが取れるように成長します。
ふれてもらうことが少ないまま大きくなると、
人を信頼できなかったり、反対に過度に人を信じすぎてしまったり、あるいは最初から人との関係を築こうとしなかったりする可能性が高くなります。
親が子どもにしてあげられる一番のことは、大きくなった時に、自分の力で世界に出ていけるようにしてあげる事だと思います。
自分が出来る事は自分で。
できないことには、
助けを求められるように。
コミュニケーションが取れて、
人を信頼することができて、
人を好きになることができること。
これができれば、どんな困難なことに遭っても、病気や障がいがあっても、自分で人生を切り開いていけるようになるのではないでしょうか?
その土台を創るのが、タッチケアの大きな役割です。
この記事を書いたひと
藤森史子
Liddlekidz国際リドルキッズ協会認定タッチケアセラピスト(小児上級・自閉症・NICU・小児がん)/ アロマボディセラピスト
様々な障害や病気をもつ子どものためのタッチケアインストラクターとして、緩和ケアセンターでアロマケアを行うセラピストとして、「人が人にふれる」ことの大切さをたくさんの方に知ってもらうための活動中。
タッチケア教室では、自閉症スペクトラムに特徴的な脳神経のしくみと行動の関係や、タッチ(皮膚感覚)と脳や神経系との密接な関係をわかりやすくお伝えし、いつでもどこでも気軽に続けられるタッチをお伝えしています。
※参考文献
・小児タッチセラピー指導者養成講座テキスト~Liddlekidz国際リドルキッズ協会ティナ・アレン
・子供の「脳」は肌にある~山口創
・手の治癒力~山口創
・皮膚感覚の不思議~山口創
・賢い皮膚~傳田光洋
・皮膚感覚と人間の心~傳田光洋
・心の成長と脳科学~日経サイエンス編集部編
・オキシトシン~システィン・ウヴネース・モべリ
・不安・恐怖とオキシトシン~尾仲達史(アンチエンジング医学―日本抗加齢医学雑誌Vol.11 No.1)
・ストレス・摂食・社会行動の相互作用:オキシトシンの働き~尾仲達史(Vol.54 No.7 心身医)